2018年12月27日木曜日

熱狂のうずの中で終りを告げる遠い過去にみた未来

 毎年、ブログで自分の思い、みたいなことを語ってきて、誰も興味を持たないのに、無駄なことをしている意識はあるのですが、しつこく、ブログを書くのは、自分にとっての心の整理のような行為なのだと感じています。今日も2018年の終わりに感じることを書いてみます。

改めて思うに、今年、当社としては、さまざまな試みが一区切りを迎えた年でした。12年続けた当社の業務が転換点を迎えていると思うのは、LuminexJapanというべつの会社をつくったことだけでなく、新しい演出手法がITテクノロジーにより、いとも簡単に実現し、これまで舞台においては、コンピューターテクノロジーなど別世界だったものが、いまやプラットホームとも言える環境になり、この流れは不可逆だろうなと感じるゆえです。

12年前、トータルショーコントロールという概念や需要も希薄だったその頃、私が追い求めたのは、ネットワークベースのショー演出制御システムの構築と、異なる要素を同期させることで得られるユニークな演出という夢だったわけですが、それらは今となっては、当たり前になり、センサーをつかった照明と映像の演出など、もはやそこに驚きは、ありません。そして、それを実現するソフトウェアのクリエイターが、そこかしこで活躍しているのです。

いつも驚きと感動を伴う技術やメソッドは、静けさの中から人知れず生まれ、今の自分の周辺同様、熱狂の中でその最後を終えるものです。12年前に描いた夢や世界観は、すでに自分の中では、暑い夏の陽炎のごとく、消えうせたと感じていて、なにより以前から不安をもっていたIT産業との完全なるリンク。舞台演出の世界をそこに働く人の力で守り、IT技術を自らコントロールすべき、と考えたあの頃、その抗いには儚く敗れ、今や目の前に濁流がたけ狂う急流に落ちた心境です。

ネットワークインフラは必要不可欠な存在

今では誰でも意識できることの一つに、演出世界の通信の基幹インフラはすべてIPネットワークになり、ネットワークインフラを否定することなど、この先、照明も映像も音響の誰もが無理だと感じることでしょう。しかし、このネットワーク技術の未来は、IT業界のレールの上にある。これを受け入れた時点で、われわれの産業はIT技術の上の存在の1つになり、プラットホームがITになったという意味なのだと思う。これは、こちらでハンドリングできるものではなく、IT産業の力が大きく関わってくる。

このITという表現に難癖つける人が出てくるので、ITの定義について確認しておくと、
情報通信技術という点だけでなく、広義のコンピューターテクノロジーを含む表現です。
舞台演出産業から誕生した技術ではなく、あちら側の技術であり、その進化はコンピューター産業の進化にぴったりシンクしていく。その速度がドッグイヤーと言われるのは、誰もが知っている事実。このような速度で進化する技術をベースにした我々の産業は今、これまでのようにネットワーク技術に長けた人が必要なく、自分たちで管理できると言える時間もつかの間で、エッジスイッチの管理すらもやがて、IT技術を持つ人に管理される時代がくるのだろう。またはこの業界に特別なセクションをもうけるか、または ネットワークインフラエンジニアの業界から演出分野のインフラを担う業界を構築するか。

いずれにせよ、これから舞台照明のノードなども、CAT6aを使うIGb/sのネットワークになり、より厳しい施工管理が求められ、バックボーンが10Gの時代がくると、もう目の前ですが。。 10年前の牧歌的なネットワークインフラとは大きくその役割や理解すべき技術のレベルが変わるでしょう。やがてクローズドな舞台のネットワークも外部のネットワークにつながり、プロのITエンジニアに管理される時代が来てしまう。われわれの仕事から、インフラ管理の仕事は、切り離されていくのだろうというのが私の想像です。以前は、この分野に関して、大きな障壁があって外の世界と隔離されたイメージをもっていた私ですが、いつのまにか、その壁はなくなり、気づかず、この業界に外の世界を呼び込むことになってしまっている気がするのです。





2018年12月16日日曜日

テクノロジーアートとステージ 異なる価値観の中で揺れる

 本当に久しぶりの投稿である。つい先日、フランスから帰ってきた今、向こうで感じた今の演出技術の進化について、久しぶりに、自分が感じている今を書いてみたいと思うようになった。きっとそれは自分があまりにこの世界から距離を置いていた反動でもあり、自分自身、これまで書いてきたブログ内容を整理したい欲求に駆られた結果でもある。ここで書く内容は、もちろんわたしの主観で書かれており、これが正しいとは証明する術はない。単に参考までに記録しておきたい。

さて、毎度の説明になるが、当社は、すでに10年以上前から、Catalyst MediaServerという製品を使ってステージ産業に誕生するだろう新しい映像分野を予見し、その分野は照明ともつながり、新たな境界を誕生させるだろうと想像していた。当時はプロジェクションライティングと表現したと思う

 https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3110217303/

加えて、そこから派生する制御という異なる分野をつなぐ役割としての存在もやがてはクローズアップされると予見した。故にショーコントロールという制御分野でも、さまざまな技術を提供し、プログラミング等のサポートを提供しようと努力し続けきた。それが当社にとっては、Medialon製品だった。あれから10年が経過して、おぼろげながら今、形成されつつある新たなトレンドの形が見えてきた。それは自分が考えたものとは大きく異なるもので、ショーコントロールというシステムや概念も過去へと追いやられ、メディアサーバーという存在もまた再定義される時代が来ているのを強く感じる。しかし間違いなくステージビジュアルを構成するさまざまなエレメントは互いにつながりあうことを求めているのである。

スタンダードなメディアサーバーのイメージは過去のもの

 入社する社員には伝えているが、当社の社名はMotion Image & Lighting control Environment から名付けた。照明と映像が重なり合う世界のイメージだった。しかし、多くの人はこの意味をあまり深く捉えることはなく、単に過去の栄光を自慢するおじさんの戯言のように聞く耳をもたない。しかし今もこの概念は生きているし、今後も照明技術と映像技術は引き寄せあうとともに、新たな世界を誕生させつつあるが、そのハンドリングについて、ステージ産業外から大きな波が押し寄せ、当初、私が考えた世界観とは大きな隔たりを見せているのはたしかである。

照明業界の人が映像について意識するとき、それらは常にDMX制御を主体とした視点に立つ。例えばピクセルマッピング、映像サーバーと照明コンソールの一体化など、まるで2000年前半の過去の幻影に囚われた思考に陥るのは、舞台演出に使うMediaServer製品が一定の地位を築き、すでに確立されたジャンルとして認識されているからだろう。それはそれで、メディアサーバーが20年の時を経て、1つの形に完成した結果でもあるのだが、今、ここで論じる新たなトレンドからは程遠い昔話である

プロジェクションマッピングという言葉で、狂乱した一時の映像演出も主役はコンテンツ制作者であり、それが今後の主流になるわけでもない。よく聞かれる4Kとか8K、10ビット色深度、この際、画質やレゾリューションなどのささいな比較材料については、もはやどうでもよい。やがて時間が解決するだろう。今、意識しなければならないことは、異なる仕組みとの連携であり、リアルタイム性、本来は制作されたメディアであったはずの映像コンテンツをソフトウェアでリアルタイムにジェネレートする仕組みが出来上がり、これらを誰が使いこなし、コントロールするのか?である。

今、メディアサーバーの新しい世界観は、ITとアートの世界を巻き込み、再定義されつつある。まるで、グラフィックデザインとテクノロジーの融合とも言える世界がそれで、彼らは、コンピューティングテクノロジーの産業を巻き込み、イベント映像産業に進出してきた。さらには、この流れがやがて舞台演出、TVなどのすべての分野に波及するだろうことは、想像に難くない。しかしそれはもはやステージ・イベント産業がそれを受け入れた時点で不可逆的で、定められた運命のようなものだ。

今や映像業界も、照明業界も皆が、トラッキング、シミュレーション、こうした新しい演出に高い関心を寄せている。仮想化世界、センサートラッキング、パーティクル生成、リアルタイムライブエフエクト、モーショントラッキング、これらすべては、1つにつながり、映像技術とIT技術が一体となる世界が今そこにあり、しかもこの分野の多くはアートインスタレーション、クリエイター産業の人が主導権を握り、ステージ演出に組み込んでいる。

いや、この手のテクノロジーを一からステージ産業で学ぶにはあまりにかけ離れすぎた技術になりつつある。この技術や手法が一般化していく過程で、その進化速度は驚異的なものになるだろう。もはやこれまでの演出技術の世界観とはまったく異なるソフトウェアによるすべてのエレメントの制御。この分野では、 ショーコントロールさえも、制御製品は過去へと追いやられ、メディアサーバーを主体としたソフトウェアによりその存在を否定されるだろう。

映像コンテンツという いわばクリエイターによる作品や、最近急増したIT技術とアートを組み合わせるテクノロジーアートとも言われる彼らの世界観は、舞台という古くから存在する価値観と混ざり合うことがないし、それは特別な世界のものだろうと考えていたが、どうやら、そうでもないようだ。今後のプロダクションの核は、映像とステージ機構と照明の連携であり、つなぐ技術はIT分野のもので、演出をデザインする人々は、複雑なプログラムをシミュレーションで確認しながらグラフィックアートをそのタイムライン上でリアルタイムにジェネレートするだろう。

その主役はクリエイターになるのだろうか?それとも、今以上に、テクニカルセクションが細分化されるのか?とすれば、私たちがメディアサーバーと呼んでいたこの装置やソフトは、その言葉以上の存在になっており、もはやなんと呼べばいいのか不明である。それほどに、私が経験した20年とは比較にならない新しさを、先週の体験であるModuloKineticは秘めていた。もうメディアサーバーの違いを騒いでいる場合ではない。それらを選んでも使いこなすこと自体、非常に幅広く高いレベルの知識とセンスを要求される時代になった。そしてそれを理解し、操ることのできる人を有する産業がすぐ近くにいる。これを脅威ととるか、無視して今、目の前にある仕事だけに集中するのか?いずれにせよ、さまざまな技術が混ざり合うことは不可避である。